界面活性剤とは?



 水に馴染まない疎水基と水に馴染む親水基が一つの化学結合で直接結びつけられている分子を「界面活性剤(界面活性分子)」と言う。界面活性分子は、その水溶液中において濃度を増加させると、分子同士が会合して「ミセル」とよばれる自己組織化集合体を形成する。この時、分子が単独で存在する場合とは異なる物性を示す。この自己組織化能を利用した様々な製品、例えば家庭では洗浄剤、また工業的には乳化剤や分散剤、気泡・消泡剤、が、数多く使われている。
 
 界面活性分子の構造や物性について、より詳細な知見を得るために、赤外(IR)スペクトルやRamanスペクトルを用いた振動スペクトル解析が、多くの研究者により頻繁に行なわれてきた。しかし、この振動スペクトルの基準振動解析はいまだ確立されていないのが現状である。振動スペクトル計算には様々な計算方法が存在するが、計算に用いるパラメータに研究者の任意性(経験的)が含まれてしまう。このため、同じ化合物の振動スペクトル解析においても、研究者によっては異なる結果が報告されるという問題点がある。
 近年、分子軌道法の発展および計算機の発達により、研究者の任意性が含まれない非経験的計算が行われるようになった。多賀グループでは、その代表的な計算方法の一つである「密度汎関数法」を用いて、様々な界面活性分子の詳細な振動スペクトル解析を行なうことを目的としている。


1.直鎖飽和脂肪酸塩の振動スペクトル解析

2.有機ケイ素化合物の構造解析


 界面活性分子は上述のように、一般に「洗浄剤」をイメージすることが多いが、界面活性分子の種類によっては、その水溶液が粘弾性を発現し、送管内の流動抵抗を低減させることが知られている。このような性質を示す界面活性分子を「抵抗低減剤」とよぶ。高層ビルの循環冷却水をモデルターゲットとした実験では、抵抗低減剤を投入すると、投入前よりも消費電力が冬では約65%、夏でも約47%減少になるほど、循環ポンプのパワーを減少させると報告されている。抵抗低減剤は、21世紀の大きな課題である「低炭素社会」実現のための省エネルギー化達成の鍵物質として、大きな期待が寄せられている。
 水溶液の粘弾性発現には、界面活性分子(分子群)が作る「ひも状ミセル」の形成が密接に関係していると考えられている。多賀グループでは、様々な疎水基と親水基を組み合わせた界面活性分子を新規に合成し、その水溶液物性を調査することで、水溶液がもつ特性と抵抗低減効果との相関を分子レベルで解明することを目的としている。

Colloid & Interface Communication -News Letter from DCSC-の記事 (38 (2013) 16-19)


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