2025年度安心・安全なバイオ医薬品を指向したカスタム修飾による糖鎖・糖タンパク質の合成システム

 

1 研究の概要

本研究では、糖ヌクレオチドの簡便合成技術を基盤として、糖転移酵素を利用した糖鎖および糖タンパク質の高機能化・均一化技術の開発を行った。特に、DMT法を用いた高効率な糖ヌクレオチド合成法の確立、糖鎖合成システムへの応用、さらに糖タンパク質修飾技術の構築を推進した。本事業は、糖鎖医薬や抗体―薬物複合体(ADC)など次世代バイオ医薬品開発への応用を見据えたものであり、医薬品製造における品質均一化、製造効率向上、ならびに高機能化を実現する基盤技術として、将来的な社会実装および産業応用を目指すものである。

 

2 研究の目的と背景

近年、抗体医薬をはじめとするバイオ医薬品市場は急速に拡大しており、その中でも糖タンパク質医薬は重要な位置を占めている。一方で、細胞を利用した既存の製造法では、糖鎖構造が不均一となることから、品質再現性や安全性確保が大きな課題となっている。また、近年注目される抗体―薬物複合体(ADC)においても、薬剤を選択的に導入するための糖鎖修飾技術が求められている。しかし、糖鎖基質の誘導体合成が困難であり、実用化の障壁となっている。

本研究では、申請者が開発した糖ヌクレオチド合成システムを活用し、酵素反応による高精度な糖鎖修飾を可能にすることで、均一かつ高機能な糖タンパク質医薬を供給可能なシステム構築を目的とした。さらに、将来的な糖鎖医薬産業やADC製造技術への展開を視野に入れ、実用性の高い技術開発を行った。

 

3 研究内容

(1)カスタム修飾による糖鎖・糖タンパク質合成システムの開発

DMT法を用いた糖ヌクレオチド合成条件の最適化を行い、高収率かつ立体選択的な合成法を確立した(図1)。さらに、合成した糖ヌクレオチドを糖転移酵素反応へ適用し、機能性糖鎖へ応用可能であることを実証した。また、アジド基を導入した糖誘導体を利用することで、糖タンパク質への機能性分子導入法の開発を進め、将来的なADC構築技術への応用展開の可能性を実証した。

 

 

 

 

図1.糖ヌクレオチドの簡便合成法

 

(2)糖鎖医薬応用技術の調査

@ 糖転移酵素を用いた糖鎖合成技術の調査研究

糖転移酵素を利用したオリゴ糖合成条件を検討し、病原性大腸菌O-157毒素中和に関与するオリゴ糖Gb3の合成および精製を行った。さらに、HPLC分析やNMR解析を活用することで、高純度かつ再現性に優れた糖鎖合成システムの構築を進めた。

 

 

 

 

 

図2.合成糖ヌクレオチドによるオリゴ糖合成

 

A 糖タンパク質修飾技術の研究

モデル糖タンパク質であるオボアルブミンを用いて、精製・分析・修飾条件の検討を行った。また、質量分析やゲルろ過精製を組み合わせることで、糖タンパク質修飾システムの高度化を進めた。今後は抗体医薬への応用を視野に入れた研究展開を進める予定である。

 

 

 

 

 

 

 

 

図3.合成糖ヌクレオチドを用いた糖鎖修飾による糖鎖・糖タンパク質の合成システム

(左:糖ヌクレオチド合成システム;右:糖タンパク質修飾システム)

 

4 本研究が実社会にどう活かされるか―展望

本研究で開発した糖鎖修飾技術は、糖タンパク質医薬品の均一化および高機能化を可能にし、安全性・品質の高いバイオ医薬品供給へ貢献することが期待される。特に、糖鎖構造を制御可能な技術は、ADCなど高度医療分野への応用可能性が高く、医薬品産業における高付加価値化および品質向上につながる。また、本技術は診断薬開発や疾患関連糖鎖解析にも応用可能であり、医療・創薬・バイオ産業への幅広い波及効果が期待される。今後は産学連携を強化し、新たな事業展開や社会実装を推進していく。

 

5 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ

これまで申請者は、糖ヌクレオチドの簡便合成法および糖鎖合成技術の研究を推進してきた。本研究は、それら基盤技術をさらに発展させ、糖タンパク質修飾・糖鎖医薬・ADC開発へと展開する重要な研究として位置づけられる。特に、本事業では、化学合成と酵素反応を融合した独自の研究体系を構築し、基礎研究成果を実用技術へ発展させる、実用化を見据えた橋渡し研究として大きな意義を有している。