界面活性剤とは?



 水に馴染まない疎水基と水に馴染む親水基が一つの化学結合で直接結びつけられている分子を「界面活性剤(界面活性分子)」という。界面活性分子は、その水溶液中において濃度を増加させると、分子同士が会合して「ミセル」とよばれる自己組織化集合体を形成する。この時、分子が単独で存在する場合とは異なる物性を示す。この自己組織化能を利用した様々な製品、例えば家庭では洗浄剤、また工業的には乳化剤や分散剤、気泡・消泡剤、が、数多く使われている。

 界面活性分子は上述のように、「洗浄剤」をイメージすることが多いが、界面活性分子を溶かした水溶液が粘弾性を発現し、送管内の流動抵抗を低減させることが知られている。この性質を示す界面活性分子を「流動抵抗低減剤」とよぶ。高層ビルの循環冷却水を用いた実験では、流動抵抗低減剤を投入すると、投入前よりも消費電力が冬では約65%、夏でも約47%減少するほどに循環ポンプのパワーを減少させたことから、「低炭素社会」実現のための省エネルギー化達成の鍵物質として、注目を集めている。この水溶液の粘弾性発現には、界面活性分子(分子群)が作る「ひも状ミセル」の形成が密接に関係しており、様々な疎水基と親水基を組み合わせた界面活性分子を新規に合成し、その水溶液物性を調査することで、水溶液がもつ特性と抵抗低減効果との相関について、分子レベルで解明することに取り組んでいる。

また、界面活性分子を水ではなく油にも利用することがある。界面活性分子を溶かした油溶液がその流動性を消失させ、ゲル化することが知られている。この性質を示す界面活性分子を「オイルゲル化剤」とよぶ。身近なオイルゲル化剤として、天ぷら油を固めるテンプル※がある。唐ゴマ(ヒマ)から抽出したヒマシ油を原料としており、その成分は不飽和脂肪酸と少量の飽和脂肪酸グリセリドである。テンプルを熱い油の中に溶かすと、冷却過程で油を閉じ込めるカゴ状の三次元構造が出現し、この中に油が取り込まれ固化するしくみである。化粧品や医薬品、食品への応用が期待されている。このオイルゲル化には、界面活性分子(分子群)が作る「逆ひも状ミセル」の形成が密接に関係しており、「流動抵抗低減剤」と同様、様々な疎水基と親水基を組み合わせた界面活性分子を新規に合成し、そのゲル物性を調査することで、ゲル化メカニズムを分子レベルで解明することに取り組んでいる。

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オレオサイエンス誌の記事 (21巻 6号(2021) 235-240)


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