平成23年度 卒業研究配属学生さんへのメッセージ 

101207  
神取秀樹

 今年は研究室での活動をよく理解してもらうため、私がよく言うせりふを以下に列記してみました。

「面白い研究をやろう」
「何が面白い?」

 まずはここから始まります。多数ある魅力的な研究室の中から私たちの研究室を選んでくれた学生さんに、研究を通してどうやって充実感、達成感を味合わせることができるか、私はいつも考えています。素晴らしい国内外の共同研究者のおかげで、生体分子をキーワードとした面白い研究のネタには事欠きませんが、学生さんに本当に面白いと思ってもらえる研究テーマを与えること、それが私の仕事です。

「研究というのは人生と同じで思うようにならないから、まあ気を落とさずやりなさい」
 ただし実際に研究を始めると、まずはうまくいきません。そもそもタンパク質を調製する操作にしても、分光装置を扱う操作にしても、学生実験で習ったことのない作業ばかりです。私の研究室では、学部の学生も大学院への進学を前提に研究テーマを与えており、最初から世界と戦うべく最先端の研究現場に身を投じてもらうため、学生実験とは大きなギャップがあります。新しい実験操作を覚えないといけない上に、やっと身につけたとしても簡単に面白いデータが得られるはずがありません。研究は面白いと思って来たはずなのに、失敗続きでは面白みを味わうどころではないかもしれません。
 しかし心配は無用。君らの先輩も皆、そういった苦しみを経験し、乗り越えてきました。幸い、「覚悟」のある学生さんの配属が続いており、研究室全体が研究に対して前向きで雰囲気もよいため、先輩も優しくアドバイスしてくれます。

「プロというのはな、どれだけ頑張ったかなど全く関係なく、結果だけで評価される。私はプロの研究者だけど、君らは違うからよい結果を出す必要はなく、いろいろとチャレンジしてみたらいいんだよ」
「学生というのはもの凄いエネルギーをもっているけど、たいがい使う方向が間違っている。でもそれは決して無駄なことではなく、むしろ大切なことなんだよね」
「君らの授業料で我々は生活の糧を得ているんだから、大学では先生より君らの方が強いんだよ。会社に行ったら全く逆だけど」

 神取研を選んでくれた学生さんは「お客さん」という意識は私の中に常にあります。「お客さん」だからこそ、他では得られない貴重な経験を、研究という営みを通して味合わせてやろう、というのが私の学生に接する基本姿勢です。一方、神取研に配属する学生さんも、単に社会に出るまでのつなぎではなく、面白い結果を出して先生をうならせてやろうと考える意欲あふれるひとが多いようです。

「自分で考えなさい。君の研究だろ?」
 何かに挑戦してやろう、という学生が多いので、うちの研究室に「指示待ち族」は皆無です。その気配が少しでもあると、私からこう言われちゃうし。

「研究室のセミナーで何も質問しないというのはな、一生懸命、準備した○△君に失礼だと思わんか?」
 こういう叱咤激励を通して、どこより厳しく充実した神取研究室のラボセミナーが構築されます。配属した学生さんの質問レベルの上昇(あるいは停滞)を観察するのは私の密かな楽しみです。

「自分の研究なんだから、自分のペースでやりなさい」
「なんでそんな時間がかかる?」

 私はよく相矛盾することを言いますが、これはその代表ですね。

「デートと研究とどっちが面白い、デートに決まっているだろ? だから頭を使って効率のよい実験を考えるんだよ。ごく稀にデートより研究の方が面白いというひとがいるけど、そんなヤツがよい研究ができるはずがないね」
 これも時間軸に関係した話ですね。

「先生が結果を予想できるような研究なんてたいした研究ではない。先生が思いもしないようなデータを出してみなさい」
 ふつうの組織では、上司が期待する結果を部下が出すと喜ばれます。私は逆です。あるレベル以上の学生さんにはこのせりふを言います。

「研究において最も大切なものはアイデアだ。アイデアのない人間も研究はできるが、研究者にはなれない」
 これはなかなか素晴らしい言い回しですが私のオリジナルではなく、尊敬するオシム前日本代表監督の以下のせりふの中で、サッカーを研究に置き換えただけですね。
「サッカーにおいて最も大切なものはアイデアだ。アイデアのない人間もサッカーはできるが、サッカー選手にはなれない。」(木村元彦著『オシムの言葉』より)

「○△君は最高だね。申し分ないわ」
「○△君、ちょっとわしの部屋に来るように」

 私は学生さんをよく誉めます。ただしそのほとんどは三人称的な使い方であり、外の誰かに向かっての場合です。これが二人称となると、誉めるというよりは、逆の場合になることの方が多いかもしれません。

「世の中には『研究のようなもの』、『研究もどき』はよくある。真の研究とは、実験してデータを出すだけではなく、原著論文としてまとめて世に出して初めて意味があるんだよ」
 プレ卒研のおかげで君らは「原著論文」とは何か、もう知っていますね。世界の研究者が目を通す原著論文を出して初めて『研究』です。実験だけした『研究もどき』とは全く異なるという意識付けは、神取研の君らの先輩には浸透しています。だからこそ、論文が通るとワイン会をするわけです。

「プレゼンは生き物だから」
 私の研究室に長く居れば居るほど、プレゼンテーション能力は上達します。
 それはプレ卒研を見れば明らかでしょう。自分が担当したプレ卒研学生のプレゼンがしょぼいと、自分が神取先生に怒られるわけですからM1も必死です。このような切磋琢磨の中から、神取研の学生は積極的でプレゼンも上手、という評価が定着したものだと分析しています。
 ただし、私のような百戦錬磨の「プレゼンの鬼」でもうまくいかないこともあります。気持ちよく講演を終わったら全く質問が出なくてガッカリ、といったこともあります。それが「プレゼンは生き物」たる所以です。だからこそ、プレゼンは一期一会であり、プレゼンはやめられません。

「うちは人材の宝庫だから」
「君を落とすような会社に明日はないから、気持ちを切り替えて次の第一希望を見つけなさい」
 私が研究を通して教えてきた時間の使い方、スジの通し方、プレゼン術、研究の出力法、外国人競争者とのケンカの仕方、といったことがらは、どのような形で社会に出ても学生さんには意味があると思っています。そこで上のような発言になります。面接に落ちた学生を励ますため無理やり、といった場合もありますが、人材の宝庫というのは実感ですね。

 最後に、神取研への配属を希望する学生さんに、以下の言葉を贈りたいと思います。 Curiosity-driven research is the name of the game. "When my students ask me what research they should do I tell them: 'surprise me'", says Kandori.
 これは2009年10月8日号の Nature 誌に "Spotlight on Nagoya" が掲載され、我々のグループの研究が紹介されたときの最後の文章です。まだNature に論文を出していないのに顔写真が載ってしまった、という複雑な心境の記事でしたが、取材してくれた記者が書いてくれた最後の2文は気に入っています。
好奇心が駆動する研究こそが、研究という名のゲームである。「学生さんにどんな研究をしたらよいかと尋ねられると、私は彼らに言います。『私を驚かせてください』と、神取氏は語る。
 今年はどんな学生さんが私たちの仲間に加わってくれるか、楽しみにしています。