平成22年度 卒業研究配属学生さんへのメッセージ 

091207  
神取秀樹

 今年は「英語」について書きます。
 英語がうまくなりたいという希望は、多くの学生さんがもっていると思います。私のような研究者だけでなく、企業に就職しても現場で使うかどうかは別として、世界語である英語ができると強いですね。何より就職活動に際してTOEICの点数は最も気になる数字の1つでしょう。すでに英会話学校などで英会話を習っている学生さんもいるかもしれませんね。
 世界と戦えるラボを標榜する私にとって、ラボメンバーの英語に対するバリアを下げることは必須であり、そのための努力をいろいろと払ってきました。2003年6月に来日した親友のレオニード(Prof. L. S. Brown;カナダ)からは「なぜセミナーを英語でやらないのか?」と真剣に問われて、「もう少し先だね」と笑って答えていましたが…
 どうすれば英語をうまくなれるか、という問題については、「ラボに日本語の話せない外国人を在籍させる」こと以外にないと私は結論しています。その観点から、8年前(2001年11月)に神取研が発足してから外国人を在籍させる努力を払ってきました。レオニードやムーディ(Prof. M. Sheves;イスラエル)ヤノシュ(Prof. J. K. Lanyi;米国)ケビン(Prof. K.-H. Jung;韓国)らの短期滞在もその1つですね。ただし、このような教授クラスの先生では長期滞在は難しいので、やはりポスドク、学生といった若手の招聘を考えることになります。私は欧米での国際会議の招待を受けると必ず別の場所も訪問するようにしていますが(最近は忙しくてあまり実行できていませんが…)、このときの目的の1つは「人買い」です。実際に2003年5月にドイツでの国際会議に招かれたとき、スペインのバルセロナを訪ね、ビクトル(Dr. V. A. Lorenz Fonfria)と巡り会いました。幸い、彼は日本学術振興会の研究員として採択され、私の科研費での延長も含め2004年10月から2008年1月まで在籍し存在感を示してくれました。バクテリオロドプシンの水の信号を時間分解法で得ることに成功するなど研究上の成果も大でしたが、ラボでは英語を話すのが当たり前、という雰囲気を醸し出してくれたことが大きかったですね。実際に、日本語を話せない外国人が不在となった平成20年度の1年間は、ラボセミナーで当たり前のように私や岩田君、古谷君が英語の質疑応答を継続していました。
 次の外国人としては中国から張宇君が2007年4月に加わってくれましたが、予想外に彼は日本語が巧く、英語という点では日本人の学生さんと変わりませんでした。2009年3月から半年間は、ストラスブール大学から修士課程のインターンシップとしてロマン(Romain Toro)が加わり、独特の存在感を発揮しました。彼は大学院に授業料のないフランスからやってきて、本学で授業料があることに驚いたようですが、郷に入れば郷に従え、ということで授業料を払ってくれました。私は日本の最高学歴学生(大学院博士課程)が授業料を支払うことの愚かしさを学内で訴え続けましたが、ルールはルール、ということでした。
 2009年4月にはインドネシアのバリ島からマディー(Wijiya I Made Mahaputra)が国費留学生としてやってきました。バリ島に理系の学問があるとは思っていなかったのですが、全く予想外なことにマディーはしっかりとした英語を話し、論理的な思考をします。来年度、大学院に進学する彼は私のところでドクターを取ることを希望していますので、あと5年はセミナーで英語を話すのは当たり前という状態が続くと私は喜んでいます。

 英語は研究者にとって、研究出力の単なる道具にすぎないわけですが、英語にひけめをもっているのは、学生さんだけでなく研究のプロである大学の先生にも多いですね。「アメリカでは5歳の子どもが英語を話している」と私はよく言うのですが、私の『英語におびえるな作戦』の成果を試すときがこの秋にやってきました。
 私の研究室にとって最も大切な学会が日本生物物理学会ですが、国際化の方針のもと、徳島で開催された年会でのすべての発表が英語化されたのです。ただし、参加者のほとんどは日本人ですので、ポスター発表であれば日本語で説明しても問題ありませんね(実際にポスター会場では日本語の説明ばかりでした)。一方、口頭発表では英語から逃げることはできません。今回、私は何も強制しませんでしたが、8名の修士課程学生のうち、なんと6名もが口頭発表を申し込みました。特に調べていませんが、マスターの学生がこれだけ口答発表している例はおそらく他にないでしょう。個々の学生からその希望を聞いたとき、「頑張りなさい、マディーと1日20分は話すように」というアドバイスをしたのですが、内心では「ほんとに大丈夫かいな?」と思っていました。
 さて本番、案ずることはなかった、というべきか、すべての学生さんがしっかりとした発表と質疑応答を行うことができました。もちろん、私がいつも言っているように「プレゼンは生き物」ですので、こういう質問の回答をするべきだった、という思いはすべての学生にあるでしょうが。
 他の会場をのぞきに行ったところ、プレゼンは英語でも質疑応答を日本語でしているところもありましたが、「光生物学」のセッションでは英語で通しました。うちのラボだけに限らず、我々の分野では世界と十分に戦っているわけですから、当たり前ですね。

 プレ卒研で「英語の原著論文読み」+「英語のスライドつくり」+「日本語のプレゼン」を経験した君らにとって、上記した学生さんの緊張感と達成感は理解できるかもしれませんね。神取研ラボメンバーのたゆまぬ努力により、私の『英語を恐れるな作戦』は実を結びつつあります。年が明けるとレオニードが1月中旬から2月中旬まで来日します。ラボセミナーに出席してもらい、はたしてどれだけの進歩があったか、あるいはそれほどでもないか、御器所のくるくる寿司屋で聞いてみることにしましょう。

 今年はどんな学生さんが私たちの仲間に加わってくれるか、楽しみにしています。