平成19年度 卒研配属学生さんへのメッセージ 

061205  
神取 秀樹

 私が名工大に赴任(平成13年11月)してから丸5年が経過しましたが、これまでの大学院生は大きく2つに分けることができます。私が赴任直後に吉田研からテーマを変えて移った谷本君(初代)、赴任直後に配属した柴田君、野崎君(二代目)、その後、突然6名もの配属生を面倒みることになった太田君、鎌田君、佐藤君、住井さん、水出さん、宗田君(三代目)。彼ら初期三世代は、私の講義を受けることなく神取研究室に配属した学生さんです。一方、現M2の池田君、川鍋君(四代目)、M1の伊藤君、井戸君、山本君、吉次さん(五代目)、4年生の北出君、小山君、高橋さん、中島君、橋本君(六代目)は、応用化学科の学生として私の「反応動力学」を2年生後期に受講した上で、うちの研究室メンバーに加わっています。彼ら20名は全員が1部の卒研生として神取研究室に配属し(谷本君だけは吉田研究室)、全員がそのまま大学院に進学しています。
 そして今回、学科の改組に伴い、応用化学科ではなく生命・物質工学科の学生さんを受け入れることになりました。現在、学科では卒研配属をどのように行うか、初の試みだけにさまざまな議論がされています。ここでは、これまで通り人気研究室の研究室主宰者という立場でメッセージを書いてみたいと思います。配属説明会も例年通り、強気に行く予定です(もし今年はうちが人気研究室でなければ誰か教えてください。配属説明会で人気取りを考えますので…)。
 150名の生命・物質工学科の学生さんは誰でもうちの研究室に配属する権利があると思いますが(他学科でも配属可能ですね)、現在、「生物物理化学」という講義を開講している以上、神取研究室に配属を希望するのは当然、私の講義を受講している学生さんであると思っています。受講していないにも関わらず配属を希望するのであれば、私か古谷先生のところまでそのことを説明に来るべきでしょう。ということで、150名の学科の学生さんがいますが、私は「生物物理化学」を受講してくれている30名ほどの学生さんを頭に浮かべながらこの文章を書いています。
 神取研究室の特徴はすでにある程度、知れわたっていると思いますが、ざっとまとめると;研究費があり、メンバーが研究に対して前向きであり、私は研究(あるいは研究をしている学生)に対して厳しく全く妥協がないにも関わらず研究室の雰囲気がよく、研究成果が出て世界をリードしている、といったところでしょうか。これをもう少し詳しく説明してみたいと思います。

☆ 原著論文や招待講演
 君らはプレ卒研によって、論文がどういうものであるか、ある程度、認識できたと思います。私の場合、2005年のオリジナル論文数は12報であり、研究者人生の中で初めて1月当たり1報を実現しました(毎月、ワインが飲める計算)。一方、2006年はさらに増えて14報の論文を出すことができ、自分にとっての新記録となりました。
 2006年における国際会議の招待講演は8件に達し(多忙のため岩田君とビクトルに行ってもらった中国を加えると2桁!)、これも自分の新記録となりました。
 これらの研究成果は、我々のグループの勢いをストレートに物語るものです(付記するならば、私は次年度、忙しくて研究ができないとされる学科長になります。これだけ勢いのある研究室であれば、名工大の名を上げるためにももっと研究に集中させるべきではと思うのですが、そうならないところが日本のシステムですね。ただし、負けず嫌いの私は、学科長をやったために仕事が落ちたとは言われたくないので、さらにガリガリやるでしょうが…)。

☆ 院生の論文
 修士課程で就職する学生さんも、卒研の1年間を加えると3年ほどの研究期間があります。これまでに修士の学位を取得した(初期三世代の)9名はすべて第一著者の論文を出しています。このことを私は、自分の論文数や招待講演数よりも誇りに思っています。それぞれの院生(=卒研生)に独自の研究テーマを与え、彼らの努力が結実して一流の国際誌に論文が掲載される(そしてみんなで乾杯する)というよい循環が、今のところできています。

☆ 学振の特別研究員
 柴田君、川鍋君という博士後期課程に進学した(する)2名は、いずれも日本学術振興会特別研究員DC1に採用されました。ほとんどの学生さんは学振の特別研究員のことを知らないと思いますので、少し説明を加えます。
 多くの工学部学生は、6年間(学部4年間、大学院修士課程2年間)、大学に在籍して企業に就職します。ドクターを取得しようとすると、加えて3年間(飛び級すれば2年間?)の学生生活を送らなければなりません。同級生がすでに給料をもらっているその時期に、さらに学生を続けなければならないのは辛いものです。しかしながら、ドクターコースに進学するとき日本学術振興会という組織(国の機関)に申請して優秀であると認められた場合、年間100万円程度の研究費に加えて、月額20万円の給料が3年間、支給されます(学生でありながら!)。これをもらえれば、親の仕送りやアルバイトを考える必要はなく、研究に集中することができます。ただし競争は厳しく、10人に1人しかもらえません。この狭き門の学振特別研究員DC1について、うちの研究室では今のところ10割の獲得率を誇っています(まだ2例しかありませんが…)。
 ということで、ドクターコースに進学して、(私のように)大学教授として研究者を目指すか、ドクターを取ってから企業の研究所で研究に従事したいと考える学生さんは、うちの研究室も候補の1つに加えたらよいと思います。実際に、修士課程で企業に就職して研究したいと考える学生さんも多いようですが(私は今年1年、応用化学科の就職担当をしました)、修士課程で就職してまともな(自由な)研究をさせてもらえるとは考えない方がいいでしょう。

☆ 研究室の規模
 院生の研究に対するモチベーションをどうやって高めようかと日夜、考えている私ですが、運営には1つのポリシーをもっています。それは、常に自分が学生の研究状況をフォローし、必要なときにいつでも呼んで「サシ」でディスカスできる体制を維持することです。そのためには、15〜20名規模のラボが理想的だと考えています。2〜3名のポスドク、2〜3名のドクターコース学生に12〜15名の学生(修士課程+卒研)、そして古谷先生と私を加えて20名程度という数が理想ですね。うちのラボでは、90分間の研究室セミナーや外の先生を呼んで講演していただくときに、相手が外国人であろうが必ず全員が質問します(それをしない学生には私が詰問します)。ラボメンバー数が多すぎるとそれが難しくなるので、今後も15〜20名という規模を維持したいと思っています。
 ということで、配属学生数の理想は、1部で4名、2部で1〜2名です。これまで、うちのラボでは研究してもらう2部の学生さんはいませんでしたが、今後、2部の学生さんでも研究に意欲のある学生さんを歓迎します(ただし1部の学生と変わりなく研究できることが当然の前提です)。

☆ 研究室の雰囲気
 ラボ運営にとって最も重要な研究室セミナーに緊張感を与えるのが私の役目であるわけですが、そのため学生さんが萎縮してしまっては意味がありません。研究は自由にのびのびと行うべきであり、そのために自由闊達とした雰囲気をつくることが重要です。ラボセミナーの緊張感と自由な雰囲気は逆方向のベクトルをもっていますのでそのサジ加減が難しいのですが、今の神取研究室ではそれがうまくいっているように感じます。これも、古谷先生やポスドクのビクトル、岩田君、ドクターコースの柴田君らの協力と、学生さんの意識の高さによるものだと思います。
 このような方向で明るく、前向きに研究に打ち込んでくれる卒研生を歓迎します。

☆ 最後に、私の夢について
 これまでの神取研の院生は、すべて名工大・応用化学科(第一部)の出身者であり、外部からの院生受け入れに私はあまり積極的ではありませんでした。このことは私が現在の院生に十分、満足していることを意味します。一方、これほど研究が面白い展開になっているにも関わらず、15名の修士課程学生のうちドクターコースへの進学を希望したものが柴田君と川鍋君しかいなかったという事実には物足りなさを感じています。
 私は、修士課程で就職する学生の力を借りて、自分の研究を伸ばそうとは考えていません。それより、自分がノーベル賞を取ることが無理な今、もしかしたら将来、ノーベル賞を取るかもしれないような若者を育てたいと思っています。これが私の夢です。会社に入って歯車になるのも結構だけど、将来、大学や会社の研究所を舞台として、新しい研究分野を開拓したいと希望する学生さんに1人でも出会うことができたらと願っています。

 以上、平成19年度に配属する学生さんへのメッセージを書いてみました。どんな学生さんが我々の研究グループの仲間に加わってくれるか、楽しみにしています。