卒研配属学生さんへのメッセージ
051212 神取秀樹
今年も学生さんへのメッセージを書く時期がやってきました。 毎年、第一部の学生さんには、前期の物理化学実験最終日に研究室見学を行っており、神取研究室は唯一のスタッフである私がいつも紹介をしています。しかしながら、今年は最後のグループの時に私が不在だったため、研究室見学をしてもらうことができませんでした。そこで、他の2グループの研究室見学のときにホワイトボードに書いた模式図を示し、実際の研究活動を説明したいと思います(そのつもりで、写真を撮っておきました)。 研究のすべては私の部屋(508室)での君らとの研究打合せから始まります。神取研究室では、『蛋白質のはたらくしくみを物理化学計測により明らかにする』ことを目指しています。具体的には、光をエネルギーや情報へと変換する蛋白質を研究対象として実験研究を行っており、何を対象にどのような切り口で研究を行うか、私の部屋で研究の目的をはっきりとさせます。 実際の研究は自分の試料を調製することから始まります。ラボが立ち上がったときは、試料調製のための設備は皆無でしたが、幸い、オープンラボで借りている501室に試料調製のための設備を備えることができました。ここでは、分子生物学的手法や生化学的手法を用いて、光受容蛋白質やその変異体、同位体標識試料を作製します。PCRや大腸菌での蛋白質発現、遠心操作やカラムクロマトグラフィーによる分離精製が基本ですが、大腸菌で発現できない真核生物由来の蛋白質調製は、京都大学やカナダのグエルフ大学などとの共同研究として行っています。光受容蛋白質は、黄色や赤色、ピンク色、紫色、青色など多彩な色を呈しており、研究を進める中で、自分の扱う蛋白質の色を好きになる傾向があるようです(中には暗室操作のため、色を見ることができないひともいますが…)。 試料ができると、いよいよ測定です。物理化学計測と書きましたが、我々のグループでは主として振動分光学、特に赤外分光法を用いた分光計測を行っています。503室奥にある低温赤外分光装置は最も重要なものであり、蛋白質に結合した1個の水分子の水素結合変化を捉えることのできる測定系は、国際的に我々のグループの独壇場です。世界をリードする低温赤外分光の研究成果は、ここから産み出されています。また512室には、低温ではなく室温でレーザー光を用いた時間分解可視&赤外分光を行うための測定装置があります。この部屋の主は、スペイン人博士研究員のビクトルです。516室には、低温の可視分光装置や、イオンポンプの活性を測定するための装置があります。オープンラボの17号館の317室には、高速液体クロマトグラフィーなどがあります。 このような測定装置を駆使してデータが得られると、院生の居室でありコンピュータの部屋でもある503室でデータの解析を行います。自分自身が作った試料の測定を行い、得られたデータにどのようなメッセージが込められているのか、考察することは研究の醍醐味と言えるかもしれません。そして解析したデータや考察をもとに、私の部屋で再度、ディスカッションを行います。君らの先輩は、よい結果を出して私を喜ばせたいといつも思っているようですが、研究というのは人生と同じで、たいがいの場合思うようになりません。従って、ふつうは図のように「ふりだしに戻る」ことになり、ホワイトボード右のサイクルをぐるぐるまわることになります。 基礎研究を推進するうちの研究室にとって、国際的なジャーナルに論文として発表することが最大の目標ですが、実験がうまくいって仕事がまとまると、(君らが)論文を構想して、(修士課程以下の学生さんの場合は)私が論文を執筆することになります。そして投稿した論文がアクセプトされると、ワインで乾杯します。部屋が狭いため、論文の祝いも(コンピュータのある)503室で行っていますが、ワインをこぼしてコンピュータが墓場送りになったことがありました。私は意欲があればどんな学生さんでも歓迎しますが、これゆえ、酒乱のひとはちょっと困りますね(N君は酒乱ではありませんので、念のため)。 研究とはどういうことをするのかについて、模式図を使ってざっと説明してみました。なお、研究者という人生について興味のあるひとに、もう少し説明を続けます(模式図参照)。よいジャーナルによい論文を出し続けていると、国内だけでなく国際的な学会から招待講演を頼まれたりします。よい講演とよい論文を続けていると国際的によい評価を得ることができ、それを繰り返す中でちょっとした幸運があると、模式図左上に到達できるかもしれません。この、袋に入った金色のメダルは何かわかりますか?これがノーベル賞です(ちなみに本物ではなく、恩師の吉澤先生のスウェーデン土産で、中身はチョコレート)。 それでは、よい研究者になるためにはどうしたらよいのでしょうか?参考になるかどうかわかりませんが、2年前の夏に一宮高校でスーパーサイエンスハイスクールの講義をしたときの図を示します。これは研究者のタマゴに贈る言葉として講義の最後に紹介した自分の考えですが、別の場所で、教育者としても名高い東大名誉教授の朽津耕三先生からも評価していただきましたので、それほど間違ってはいないでしょう(朽津先生には、英語も大事だけど、国語を研くことも加えてほしいと言われました。全く同感です)。また研究を成功させる最も重要なキーワードとして「タフであること」を挙げたいと思います。これは、国際会議に出席し、分野を代表する連中が連日、夜中まで飲んでいながら、翌朝はいちばん前の席で熱心に聴いている姿を見ると実感します。 どの先生もそうだと思いますが、例年、卒研生配属の時期はどんな学生が来てくれるのか楽しみなものです。うちのラボの場合、今年の第一部の卒研生(4名)は、すべてA推薦の学生が集まってしまいました。このことを私は少々、憂えています(4名の学生さんには全く問題ありません、念のため)。人気研究室になることはありがたいことですが、もし成績のよい学生さんしか入れないとしたら… 私は普段から言っているように、研究において名工大生が東大生や京大生に負けているとは全く思っていません。このような考えの私にとって、配属する学生さんが成績上位者であることは何の意味もありません。逆に、博士課程のS君のような、学部のときは(クラブ活動ばかりしていて)勉強をしたことがなかったけどやる気にあふれて研究に対して高い意識をもっている学生さんが、メンバーに加わることができないとしたら、これは問題です。私が求めるのは、研究に対してどれだけ「タフ」であるか、ということだけであり、成績上位者はこの部分をよく読んでおいて下さい。 あと、私のラボについて、多くの人がもっている勘違いについて少々。 1)私は「博士課程進学希望の学生ばかり求めている」と思っているひとが多いようですが、これは間違いです。例えば、5名の学生さんが配属したとき、私が希望するのは、「全員が修士課程に進学し、そのうち1名が博士課程に進学する」ことです。博士課程に進学して、研究者を目指す学生さんには自分のできる限りのサポートをしたいと思いますが、米国と比較して企業がドクターの受け皿になっていない日本では、1年に1人くらいが妥当だと思っています。 2)うちのラボでは、論文が通るとワインで乾杯しますが、アルコールが飲めなくて心配しているひとがいるかもしれません。しかし、その心配は無用です。若い人と飲むのが好きな私ですが、車で通勤しているので、いつも私だけは「午後の紅茶」で乾杯しています。仲間がいなくてさみしく思っています。 上記の通り、第一部の学生さんについては研究の指導体制も方針も完全に確定したのですが、第二部の学生さんの卒研指導をどのようにするかは、今も迷うところがあります。ラボメンバーの数に対して装置が限られていることから、これまでは実験をしてもらっていませんでした。英文の教科書読みとセミナーへの参加が基本であり、よほど強く希望するひとでない限り、来年もこの方針でいこうと思っています。 以上、平成18年度に配属する学生さんへのメッセージを書いてみました。どんな学生さんが我々の研究グループの仲間に加わってくれるか、楽しみにしています。 |