平成17年度 卒業研究配属学生さんへのメッセージ

 
 041217 神取秀樹

 前年に引き続き、このホームページ上で応用化学科の卒業研究配属学生さんにメッセージを書くことにします。ついては、改めて「平成16年度卒研配属学生さんへのメッセージ」を読み直してみましたが、わりとよく書けていて、伝えたいことはほとんど変わっていません。蛋白質を対象とした物理化学的な基礎研究を行っていること、研究レベルは世界のトップを走ること、やる気があればどんな学生さんでもいいこと、ただし大学院への進学者を前提にしていることなど、前年の文章を参考にしてください。
 ここでは、「就職」と「誇り」という2つのキーワードについて、日頃思っている雑感を書いてみたいと思います。卒研配属学生さんの参考になることを期待して…

【就職について】
 京大・院理・生物物理という学生を企業に送ることを考えなくてもよいところから工学部へやって来た私にとって、学生の就職にどう対応するのか、当初は大きな不安でした。幸か不幸か、自分自身が社会や会社との接点をほとんど考えずにやってきましたので。しかし3年が経過して、1つの結論に達しました。学部だけでなく修士課程で就職する学生さんも、大学院で「何を」研究したのかということよりも、「どのような姿勢で」研究したのかを企業が重要視しているということです。企業側が求めることは、自らが教育するため十分な素地(ポテンシャル)をもっている学生であると理解しています。
 ということで、当初の不安から一転、私は現在の研究室活動(具体的には主体性をもたせた研究、英語を話す環境、緊張感のあるセミナー、セミナーで研かれるプレゼンなど)は、修士課程で就職する学生さんの血肉になるものと確信しています。すでに神取研究室の学生さんは発表が上手だという定評が出来ていますし、研究活動を通して、困難を打破する能力や、自分の考えをひとに伝える力、豊かな人間関係の形成、美味しい酒の飲み方などを会得してもらいたいと思っています。
 このように、研究室への配属はその次の就職先を限定するものではないわけですから、学部や修士で就職する学生さんは、研究室配属にそれほどシリアスにならなくてもいいのかもしれません。私のような研究ガリガリの教官のところへ来てもいいし、もっとゆったりと研究させてもらえるところへ行ってもいいでしょう。要は、学部の1年間、あるいは修士課程を合わせた3年間にどれだけ充実した生活が送れるかということだと思います。
 なお、博士課程へ進学するとなると、話は全く変わります。自分の将来が、進む研究室に大きく関わります。ここから先はメッセージを直接伝えたいと思いますので、博士課程への進学を希望しているひとは508号室まで来てもらえると幸いです。

【誇りについて】
 「誇り」を語る前に、教育と研究の違いを説明しなければなりません。君らがこれまでに受けてきた「教育」において、先生は常に正しく、絶対的な存在でした(「単位」も握っていますし)。自然科学において「教育」が扱うものは、科学の歴史の中で積み上げられてきた真実(あるいは真実と信じられているもの)であり、偉大なる過去のことがらになります。一方、「研究」の視点は全く逆方向の未来を向いており、新しいことをやるわけだから当たり前のことですが、そこには正解はありません。「研究」の前では学生さんも先生も全く対等であり、先生は文字通りただ先に生まれただけの存在にすぎません。しかし、これをわかっていない学生さんが多い。場合によっては、先生もわかっていない。研究の現場で大きな進展(これを英語でブレークスルーと言います)をもたらすものは、それまでの知識や経験ではなく新しい発想であることは、歴史が証明しています。知識はあるけど頭が硬化してきた上に、雑用に追われている先生と、何も知らないけど意欲と時間と頭の柔軟さをもった君らのどちらが「研究」に貢献できるか、私は自明だと思っています。
 そこで我々、研究室主宰者にとって、頭の柔軟な君らにどれだけ頑張ってもらえるか、切実な問題となります。私は現在、現場を離れてマネージャー役に成り下がって(上がって?)いますが、最も大切な仕事は、研究費を取ってくることでも、手早くよい論文を書くことでも、招待講演で素晴らしいプレゼンテーションをすることでもなく、現場の学生さんにどれだけ「誇り」をもたせることができるか、ということだと考えています。逆に言うと、外部資金も論文も招待講演も、すべて君らの「誇り」のためということです。
 私は本学で自分の研究室をもってみて、君らの先輩の質のよさに驚きました。これならば、十分に世界と戦える(あるいは凌駕できる)と思っています。しかし一方で、名工大の学生さんには自信がない。「自信」は間違いなく「能力」を伸ばしますから、自信のなさは研究をする上で、大きな損です。私は赴任1年後の学科セミナーの冒頭で、「名工大生の勘違いと京大生の勘違い」というスライドを示しました。この意味がわかりますか? 両者はあまりたいした違いがないにも関わらず、京大生は自分たちが日本一だと思っています。名工大生は京大生どころか名大生にも勝てないと思っています。これは入学試験時の偏差値では事実だったかもしれないけど、研究のことを考えると全くの勘違いです。私はそのことを本学で実証しようと思っていますし、君らの先輩の努力で徐々に証明されつつあります。

 以上、平成17年度に配属する学生さんへのメッセージを書いてみました。どんな学生さんが我々の研究グループの仲間に加わってくれるか、楽しみにしています。