(注1) G. Blaschkeらは、37 ℃の人の血漿中において、R体のサリドマイドは迅速にラセミ化することを報告している。すなわち、R体のみを投与していても、体内でS体が生成するため、サリドマイドの悲劇は起きていたかもしれないということが、最近明らかにされた(1992年)。

(注2)かつて服用した妊婦から奇形児が生まれ、問題になった薬。このサリドマイドは、新たな血管の発生を阻害する働き(血管新生阻害作用)があり、この作用のため奇形児が生まれた。しかし、この作用の抗ガン剤への利用が現在注目されている。ガン細胞は正常な細胞と同様に栄養を吸収しなければ成長できない。ガン細胞につながっている血管は、ガン細胞の命令を受けてどんどん太くなる。サリドマイドはガン周辺に新たな血管を作らせないようにすることで、ガン細胞に栄養を与えない。肺ガン・腎ガン・悪性黒色腫(皮膚ガン)・前立腺ガン・多発性骨髄腫・乳ガン・グリオグラトーマ(脳腫瘍の一種)の各ガン治療で実績を上げている。
また、サリドマイドの使用を一度禁止した米国食品医薬品局(FDA)は、ハンセン病の合併症の治療薬として同薬を承認した。しかし、この薬の危険性のため、使用はハンセン病による結節性紅斑で耐えがたい痛みを伴う患者に限られている。
さらにはエイズを引き起こすHIVウイルスは、増殖に細胞障害性の強いガン細胞を壊す因子(TNF)を必要とし、TNFの産生を邪魔するサリドマイドによってHIVの増殖は抑制できることも知られている。