カーボンナノチューブ、ピーポッドの高圧下の挙動

DACで加圧

2004/03/11-13 の間、Spring8 で実験させてもらいました。開端、閉端、ピーポッドの3種類を25 GPa 程度まで加圧しました。 ビームラインは10XU、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を利用した実験です。

DACの試料室は金属にあけた小さな穴(一般に0.2 mm 以下)で、この中に圧力媒体となるアルコールやHeガスと圧力ゲージになるルビーチップ(ルビーの蛍光線が圧力に対してシフトすることを利用する)とともに試料を封じます。この小さな穴に穴より小さくコリメートしたX線を入射して(ダイヤモンドはX線吸収が小さいのでダイヤモンドを窓として使う)回折図形を観測します。SPring8の10XUでは下の写真のような感じになります。

さて、DACは2つのダイヤモンドを近づけることで加圧します。ふつうは何かネジを締め上げていくことで加圧します。したがって、加圧のたびに、DACを光学系からはずし、再セッティングしなければなりません(少なくとも私の学生時代はそうでした)。ところが、時代は変わっていました。DACの加圧はHeガス圧で行っていて、何とリモートコントロール可能でした。DACは一度セットしたらそのまま、ハッチの扉さえあける必要がありませんでした。すごいなあと感心するとともに、これは非常に簡単に、非常に質の良いデータが得られるに違いない、とウキウキしたのを忘れていません。

ところが、最初に取れたデータがこれです。なんだこりゃ。これは、こんなん回折線じゃないと馬鹿にしていた Sharma たちのデータと似たり寄ったりじゃないか。ウキウキからガッカリへ。このあと完全に冷静さを失い、ともかくルーチン的に実験を終わらせました。ガッカリしたまま、数十日、引越しなどもありデータを放置しました。異動に関わるごたごたも収まり、少し心に余裕ができ、捨ててしまうのももったいないかとデータをもう一度引っ張り出して見ることにしました。

データを引っ張り出して、とりあえずバックグランドを引いてみてびっくりしました。きれいなパターンが取れている!!大きなバックグランドに隠れていただけだったのです。慌てて、解析に入りました。まだ、論文にしていないのですが、

  1. open-end, closed-end に対して、チューブ径、格子定数を最適化するプログラムを開発し、これを適用したところ、圧力に対するチューブ径の収縮の仕方に大きな違いがあることが判明。
  2. C60ピーポッドのチューブの中のC60分子間距離は10GPa程度までは大きく縮むが、それ以降は縮み方が小さい。また、25 GPa まで加圧して減圧すると、1気圧まで戻してももとの分子間距離に戻らない(C60分子の重合か?)。
ピーポッドで起こっていることを確認するため、2004.Oct.9-11 の間、再度実験を行いました。fcc C60についてアルコール圧媒体で35 GPaまで、Heガス圧媒体で 25 GPa までそれぞれ実験しました。圧媒体を変えただけなのですが、大きく圧縮特性が異なるようです。悩ましいことに、どちらもcubicのまま縮んでいます。この違いはどこから来るのだろうと頭を悩ませています。


. これまで行った研究については 発表論文 をご覧ください。