◆ 構造物性(熱膨張、圧縮率)
まず、正方晶、菱面体晶フラーレンポリマーの合成について。実は菱面体晶フラーレンポリマーのほうはわりと純度の高いものが早くから合成できたのだが、正方晶のほうはうまくいかなかった。論文には0.5 GPa くらいの低いところで加熱をしてさらに加圧すると良いというような報告があったのだが、確かに正方晶が多くはなったが、どうしても菱面体晶がかなり混じってしまうというのが避けられなかった。ところが、あるとき圧力を少し低くしてやるとうまくいくことがわかった。
合成した正方晶、菱面体晶フラーレンポリマーのXRD回折図形。上に書いたようなことで、2つの測定の間には5年間以上の月日が流れている。
この構造は重合面内が共有結合、面間はファンデルワールス力なので構造特性の異方性が大きいはずだと推測される。あんまりそういったことは調べられていなかったので、まずはお手軽に熱膨張を測ってやろうと思いました。ふつうの粉末回折計にゴニオヘッドがのるように改造したものを使い、ゴニオヘッドに立てたキャピラリにかぶせるような炉(写真)を自作して高温XRDその場観察を行った。温度コントロールはふつうの温調でやりましたが1度のところがほとんど動かないくらいには安定していました。ある国際会議でこの写真を見せたところ、フランスの方ですが、絶対にこんなもので安定しないと言うのですが、どうしてあんなに疑われたのかよくわかりません。
菱面体晶のほうの実測パターンです。高温にすると473Kくらいのところで fcc 構造に転移しているのがわかると思います。
菱面体晶のほうの格子定数の変化です。これらの結果は大森君の卒業論文と論文[1]にまとめられています。正方晶のほうは大森君から5年遅れの浅野君の卒業論文にまとまっています。
熱膨張は上のグラフのようにすると圧倒的にc軸に伸びて予想通り!と威張りたいところですが、熱膨張係数にすると意外と変わらないことがわかります。結合特性がそんなに効かないのかなと思っていたのですが、熱膨張の逆に圧縮してやるとその違いははっきりしました[2]。フラーレンポリマーを加圧しながらXRDを観測しました。下の写真はつくばの放射光施設KEKにあるARリングに設置されているキュービックアンビルプレス(MAX80)です。
試料まわりは下のようになっています。
正方晶のほうを加圧したときのXRDの変化です。
格子定数の圧力変化はこうなります。(これはかなり差が見られてとても面白いと思ったのだが、残念ながら我々より早く同じような実験をしているグループがいたのです[3]。また、t-C60のほうはもうちょっと高い圧力まで加圧すると相転移するというのもこのあとわかりました[4]。なんとも残念な仕事でした。)
測定した、熱膨張係数、体積弾性率は以下の通りです。
熱膨張 | 体積弾性率 (GPa) | |||
a軸 (1/K) | c軸 (1/K) | |||
rh-c60 | 4.0 × 10-6 | 1.5 × 10-5 | 30.6 | |
t-c60 | 7.0 × 10-6 | 1.5 × 10-5 | 25.3 |